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照りつける太陽が、アスファルトをじりじりと焼いていく・・・。
 一学期の終業式の日、ちがう制服を着た、女子高生らしき3人組が遅めのお昼ご飯を取っていた。
 この女子高生達は、同じ中学校の出身らしく、久しぶりの再会に話が弾んでいた。
 「さおりー、そう言えば、崇志くんとはどーなったのよー」
 少し、髪の毛を茶色くいているちょっと子ギャルの入った女の子が話しを切り出すと、すぐに、日に焼けて活発そうなショートカットの女の子が続けて。
 「そうそう、さおりってば『崇志くんと同じ学校に行く』って、がんばってたもんねー。
  なんか、進展あったの?」
 「え、いや・・・その・・・」
 さおりと呼ばれた女の子は、耳まで真っ赤になって、飲んでいたアイスティーを吹き出しそうになる。
 「早く言いなさいよー、さては・・・もう、つき合うことになちゃったとかぁ?」
 「えー、マジで?さおりにしては、やっるじゃ〜ん」
 「『さおりにしては』って、何よぉー、失礼なっ」
さおりの顔はますます真っ赤になっていく。
 「やっぱり、そうなんだぁー、何年だっけ?さおりの片思い期間って?」
 「中学に入った頃からだから、もう3年かぁ・・・長いのぅ・・・」
 「なんで、勝手に話を進めるかなぁ」
 「よっ、この色女っ。高校最初の夏休みをエンジョイするのねっ」
 「きゃぁー、うらやましい〜、私は部活ばかりよぉー」
 「それで、ホントのところはどーなのよ」子ギャルが身を乗り出してくる。
 「どーなのよっ」部活少女も乗り出してくる。
 「しょうがないなぁ・・・。二人の言うとおりだよ。」仕方なく、さおりが答える。
 「ほほう・・・、んで、『でぇと』とかしたわけぇ〜」
 「もう、『きっす』とかしちゃったとかぁ〜」
 恥ずかしさのあまり、下を向いてしまったさおりは
 「まだ、そんなわけ・・・ないじゃん」小さな声で答える。
 それを聞いた二人は、声をそろえて
 「どーゆうことよっ、それ〜」声の大きさに、他のお客が全員振り返った。
 「さっき、『好き』って、言ったきたから・・・」ますます小さな声で、さおりは答えた。
 「ええええええぇ〜〜」また二人で、絶叫した。今度は、店員まで手を止めて振り返った。
 子ギャルの方が、先に息を整えて
 「・・・で、崇志くんは、なんて言ったわけ?」
 「・・・・・・・いいよ、って。」
 「いや、そう言う事じゃなくてさぁ、やっぱ、前からさおりのこと、好きだったとか、そーゆーことは?」
 「うん、中学の頃から、って・・・」
 「ほほーう・・・なーるほど、二人は実は両思いだったって訳ねぇー。」
 「くぅー、憎いねぇ、このこのっ」
 「初でぇとはどこに行くの?」
 「そーだよっ、夏休みが始まっちゃったんだから、さっさとしなさいよ。」
 「うん・・・実は、あしたなの・・・」
 「ほほーう・・・なーるほど・・・」

   そんな会話が、夕ご飯の時間まで続いた。


 そして、次の日、私はいつもより少し早起きして、身支度をしていた。
 今までしたことがないくらい、丁寧に・・・
 お気に入りの白いブラウスと、青いチェックのスカートを着て、家を出た。
 緊張して、財布を忘れたり、ハンカチを忘れたり、腕時計を忘れたりして、その度に家に戻っていたら、
 「落ち着いていかないと、また忘れ物するわよ」と、お母さんは昔を懐かしむように笑っていた。
 夏の朝の日差しが、今までよりもずっとまぶしい。
 まぶしくて、余計にどきどきしてしまう。
 待ち合わせは、渋谷のハチ公の壁画の前。
 早く行き過ぎても、崇志くんはいなのに、意味もなく急ぎ足になってしまう。


道路の向こう側にあるバス停に行こうと、道路を渡ったところで、私の意識は途切れた。
気がついたら、ハチ公の壁画の前に居た。
でも、崇志くんは来ない・・・いくら待っても。
それに、誰も、私に気づかない。
こんなにたくさん人がいるのに、どうして?
それに、なんで、ここから動けないの?
さみしいよ・・・お母さんに会いたい、友達に会いたい・・・崇志君に、会いたいよ・・・



 あの夏の日から、もうどれくらい経ったのか・・・
今日も、ここはたくさんの老若男女が行き交っている。
幸せそうなカップル、家族連れ、外国からの観光客、修学旅行の学生、派手な格好をした女の子の集団・・・
これだけたくさんの人がいるのに、さおりには誰一人気が付かない。
夜遅くに、さおりが立っていても、すぐそこの交番の警官さえ、声をかけることをしないのだ。
そんな日々が続き、さおりの時間感覚は狂い始め、永遠が一瞬に、一瞬が永遠に感じるようになった。
寂しく悲しい思が、さおりの心を占めていた。
進むことも戻ることも出来ないまま、さおりはそこに居るほかなかった。



崇志は、さおりが待っている場所へやってきた。
 「崇志くん・・・」
さおりは、待ち続けた日々を思って、胸が一杯だった。
いくら待っても来ない、崇志を責めていた日々もあったが、今はそれよりも来てくれたことが、ただただうれしかった。
じんわりと滲んできた涙の向こうに崇志が見える。
・・・だが、崇志はさおりの前を素通りして、デニムのミニスカートの女の子の元へ駆け寄った。
 「・・・なんで・・・、どうしてなの・・・崇志くん・・・」
さおりの心は、弾けた。


 どぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!
 いきなり、地面が揺れ出す。
 「地震か?」と、揺れはじめの頃は思われていたが、一向に収まらない。
 スクランブル交差点は、波を打っていてまっすぐ歩ける状態ではない。
 人々は、行き場を失い渋谷駅前はパニックになっていく。
 ついに、周辺のビルのガラスにヒビが入り始める。
 「渋谷って胸キュン?」と書いてある白い猫の描かれた渋谷駅も真上の大看板をはじめ、周辺の看板は落ち始めた。
 運悪く下敷きになった男性が、うめき声を上げ、連れの女性は正気を失ったかのように、狂い叫ぶ。
 逃げまどう人々と逆行して、一人の女性が駆け寄ってきた。
非番で渋谷に買い物に来ていた、瑞希である。
ただならぬ殺気を感じ取って、やってきたのだが、霊感の強い彼女でさえ地震が起きるまで気が付かなかったくらい、急な出来事だったのだ。
 下敷きになった男性を助けようとするが、バランスを崩すと余計被害が大きくなる。
 「辛いけど、少し持ちこたえられそう?応援が来るまで、待ってて・・・」男性に聞いた。
 「あぁ、なんとか・・・。はまりこんで抜けないんだ。」
 「男の子は、そうでなくっちゃ。」瑞希はほほえみ、携帯電話を取り出して捜査零課素喜田課長直通回線に電話をかけた。


 「はぁーい☆、どーしたのー、瑞希ちゃーん♪でぇとのお誘い?」相変わらず、飲んだくれている・・・
 「はぁ・・・」一瞬、深いため息をつき
 「渋谷駅前で、原因不明の地震が起きています。急にすさまじい殺気と、揺れが感じられます。
  おそらく、心霊現象に依る物と予想されます。至急、捜査零課の出動を要請します。」
 「わかった、至急零課を急行させる。それまで持ちこたえてくれ、瑞希警部。」
素喜多はしっかりとした口調で、答えた。
瑞希は、少し安心したように笑みを浮かべ、
 「大丈夫です、これ以上、渋谷を破壊させません。」と、きっぱりと答えた。
電話を切り、瑞希は
 「誰だかわからないけど、かかってらっしゃいっ」と、上空を睨んだ。
 瑞希は小振りのショルダーバックから、御神酒の入った小さなガラス瓶を取り出し、念を込めて気配のする方に振りかけるが、一瞬で蒸散してしまい、全く効かないようだ。
一般の人間には、全く見えないのだが、瑞希が御神酒をかけた方には浮遊霊などの雑多な霊の固まりが、うごめいているのだ。
 それは、周りの静まっていた霊まで吸い込んで、大きくなっていく・・・。
 「なんなのよー、これは・・・」瑞希は、あきれたようにつぶやく。


 電話を受けたとの素喜多の行動は素早かった。
 零課の人員を渋谷に派遣した後に、各種報道機関に報道規制を敷き、警視庁に機動隊の出動を要請し、渋谷駅周辺の一帯を閉鎖状態へ持ち込んだ。
 これは、これから起こりうるであろう心霊現象と、零課の活動を一般の目に晒さないためである。
 「頼んだぞ、捜査零課・・・」
 屋上から、煙の上る渋谷の方向を見てつぶやき、零課のデスクへ戻っていった。

 
真っ先に飛んできたのは、桜木こじか巡査部長である。
彼女は、実のところ幽霊であり、文字通り「飛んで」来るのだ。
 「あらぁー、すごいことになっちゃって・・・一体、誰がこんなことするのかしら?
 最近は静かになっていたのになぁ〜」
軽口を叩きながらも、相手の気配を探る。
 「うーん、周りの霊が同調しちゃって、誰が核かわからないよぉー」
 そんなこじかに瑞希が気づいた。
 「やっぱり、あなたが一番早いのね。まったく、ひどいものね、これは・・・」
 息を切らしながら、携帯用の短刀で雑魚の浮遊霊を叩き切っていく。
 瑞希の短刀は、刃は潰してあるので直接的に切ることは出来ないのだが、瑞希が念を込めることによって、精神体にダメージを与えることが出来るのだ。
 少し遅れて、榊・吉田の両管理官に続いて、捜査零課の面々が到着した。
 「瑞希さーん、装備です!」とぴよ巡査長が、白木の柄の日本刀と大きめのウエストポーチを、瑞希に渡す。
 「さんきゅ、ぴよさんっ」瑞希が、にこっと笑って受け取る。
榊は周りを見回して、あまりの壊されぶりに太いしっかりした眉を寄せた。
 「瑞希、状況はどうなっている。」
 「はい、先ほど報告したときより、一般人の怪我人が増えています。
  また、ターゲットが周りの雑多な霊を呼んでいるので、中心がわかりません・・・。
  沈静化していた霊まで、騒ぎ出したため、中心を叩く必要があります。」
瑞希は榊に向き直り、淡々と報告する。 
榊は振り返り、連れてきた部下を見て、
 「心霊班捜査係は、ターゲットの中心を探ってくれ。
 特別強襲係、浅間山荘突入係は、怪我人の救出と心霊捜査課の援護に回ってくれ。」
 一般人の避難誘導は、スムーズに進んでいく。
瑞希が、瓦礫を次々と退かしていく冴上に声をかけた。
 「君のそのパワーを、生かしてみない?」
瑞希が案内したのは、渋谷駅の看板の下敷きになった男性である。
 「ごめんね、遅くなって・・・」
 「あ、ぁ、なんとか・・・」
 「じゃ、この看板をどかせばいいのね。」
 「ええ、バランスが悪いから、気をつけて・・・」瑞希は、男性を冴上に託すと持ち場に走っていった。
 冴上が慎重に瓦礫と、落ちてきた看板を取り除いていく。
 3分ほどして、男性は瓦礫から脱出することが出来た。
 所々、血が流れてはいるが、大きな怪我は無い様で、自力で起きあがれた。
男性を避難させようとした、そのとき、ターゲットが襲いかかってきた。
 零課の一同が振り返る。
 今、助け出された男性に向かって、体当たりしてきた。
 「危ないっ!」冴上が、体で男性を庇う。
<  「こんちくしょぉー」
 盾を2枚重ねて、浅間山荘突入係の佐々木・あくぴーの二人が、冴上と男性の前に立ちふさがった。
彼らの盾はそこらの霊の攻撃には、びくともしない結界が内蔵されているのだが、それでも、どんどん押されていく。
 「昨日、瑞希さんに結界を張り直して貰ったばかりなのに・・・」あくぴーがうめくように呟く。
 「どぉーりゃぁー、いっけぇー」佐々木がニューナンブを気合いと共に、全弾をターゲットに叩き込む。
ターゲットに穴があいて、向こう側が見えた。
 「やった・・・か?」佐々木が目を疑った。
 「やだ・・・再生していく・・・」あくぴーが、泣きそうな声で言った。
ターゲットは見る見るうちに、再生していき、穴を塞いでしまった。
今度は、地面に落ちていた瓦礫とガラス片が、襲ってくる。
 「どうした!?」心霊捜査課の援護をしていた特殊強襲係の二人が駆け寄る。
 Ithacaが至近距離からG3を放つが、ダメージを受けてもまた再生していく。
 「なんだよ、この化け物は・・・」後からやってきた、清原がぼやく。
彼は、ターゲットの急所を探そうとしていた。
しかし、見つからない・・・!!
 「早くしてくれ、瑞希・・・正体を突き止めてくれ・・・」
彼の言葉は、その場にいた5人の気持ち、そのものだった。


 そのころ、心霊捜査課はターゲットの核を探っていた。
 落ち着いて捜査するために、被害の及んでいない道玄坂を半ばのぼったところに結界を張って捜査本部を作っている。
 ここからだと、上から渋谷駅の方が望めるからだ。
渋谷駅の周辺にのみ、被害が局限している。
有名な待ち合わせスポットであるため、たくさんの人々の思い入れが集中している場所なので、余計に付近には浮遊霊が多く存在していたのが、今回の事件の被害を大きくしている一つの要因である。
 「うーん、同じ幽霊なあたしからも、真ん中は見えないんだよね・・・」こじかが頭を抱えてる。
 「こじかちゃんが無理となると、かなり厳しいわね。この渋谷と言う土地柄、こんな事しそうな悪霊って、元気だった?」瑞希は、結界の補修をしながら、ぴよに話を振る。
 「最近は、おとなしかったから、急にこんなに怒り出す事は、考えられないわ。」ぴよは羅針盤のような物を取り出し、付近の地脈を探っている。
 「・・・っあ」こじかが、駅の方を指をさした。
 「あの人の周りだけ、攻撃を受けているわ。」
 「さっき、看板の下敷きになっていた人じゃない!?」瑞希が、目を疑った。
 「なぜ、あの人だけに集中して攻撃するのかしら・・・」ぴよも手を止めて視線を移す。
 「何か、ターゲットと関係あるかも?」こじかがひらめいたようだ。
 こじかはふよよよ〜と、結界をすり抜け、男性の元へ行く。
 「あくぴーさん、この人にお名前と生年月日、あと、この場所の思い出を聞いて!」
 こじかの言うとおり、あくぴーは男性に質問した。
 こじかは瑞希に男性のこの場所の悲しく、切ない思い出を報告した。
 「うーん、肉体を持った人に憑依させた方がいいんだけど・・・」こじかはちらっと、吉田の方を見る。
 (適任者と言えば・・・吉田さんよね〜、霊媒体質をここで生かさなきゃ♪
  そうそう、くわはらさんに『落として』貰えば、丸く収まるし・・・)
瑞希にアイコンタクトを取ってみる。こくり、と瑞希が頷いた。
 「吉田さん、ちょっといいかしら?」
 「え、何です?」
久しぶりに、衛生看護係のくわはらに憑き物を落として貰ったので、吉田の顔色はすこぶる良くなっている吉田は、素喜多との連絡を取っていた様で、無線機を握っている。
 その無線機を「ちょっと借りますね」と断って、素喜多に報告する。
 「瑞希です、ターゲットの周りの霊がうるさいので、吉田管理官の肉体に核となる霊のみを憑依させてみます。よろしいでしょうか?」
 「よろしい。存分にやりたまえ、瑞希警部。」
 「了解です。フォローはくわはらさんにお願いしたいので、彼女をこちらへ派遣してください」
 「わかった、至急向かわせる。」
 無線を一度切って、瑞希は振り返りながら
 「・・・と、言うことです。ちょっと、お借りしますね。」
 「そんな勝手な・・・」と、言い終わる前に、瑞希の手刀が吉田の後頭部に入っていた。
 「じゃ、始めよっか。」ぴよとこじかに呼びかけると、二人は真剣な眼差しでうなずいた。
 

  「困るじゃないか、瑞希君っ!! 私の許可無しに勝手な行動は許しませんよっ!!」
香庵は遅れて気が付いたが、吉田はすでに瑞希達に連れていかれるところだった。
いくら叫んでも、瑞希達には聞こえていない。いや、聞こえないふりをしているのかもしれない。
  「まったく、いつもいつも勝手に行動するかなぁ〜」頭をかきむしりながら、甲高い声を上げてばりばりと胃薬をかみ砕く。
相変わらず、胃を痛めているようだ。
 

 結界を出て、攻撃を受けている男性の近くに、雑魚を切り飛ばしながら吉田を二人掛かりで運んでいく。
 腰掛けられそうな瓦礫を探し、吉田の上物のダークスーツが汚れないように瑞希はハンカチを敷いた。
 無理矢理、肉体を借用した吉田へのせめてものお礼である。
 「よっこらせ・・・」吉田を腰掛けさせて、ターゲットの方に、視線をやる。
 「こじかちゃん、準備はいかが?」
 「はーい、それでは、始めますよ〜」
 「榊さん、一回彼らを安全な場所へ避難させてください。これから、吉田さんの肉体にターゲットの核を憑依させて、対話したいと思います。」無線で、一般市民の避難誘導の指揮を取っていた榊に連絡をとる。
 「わかった、場所は捜査本部で良いか?結界を張ってあると思うが」
 「はい、大丈夫です。」
 榊は総員に退避命令を出し、外にはターゲットと心霊捜査課だけとなった。
 結界の中から、零課の面々は息を飲み見守っている。
 しかし、攻撃の先は変わることなく結界の中に避難した男性の方へ向けられている。
 「あなたは、一体何がしたいの?何を伝えたいの?」こじかが問いかける。
一瞬、攻撃が少しだけ弱まった様な感じがした。
 「・・・なぜ、『崇志』さんに攻撃するの?」かまわずこじかは、問いかける。
『崇志』とは、あくぴーが聞き出した、なぜか狙われている男性の名前である。
その質問が終わる前に、こじかの方へ大量のガラス片を飛ばしてくる。
ガラスの破片はすべて、こじかの体をすり抜けていく。
 「私には、効かないよ・・・ゆーれいだもん。あなたと同じ」
 『私は、幽霊なんかじゃない・・・っ!!』
今度は、精神波を飛ばしてくる。
とっさに、瑞希がこじかの前に出て、刀で振り払う。
 「あなたは、幽霊なんだよ。もう、亡くなったの。気づいていないかもしれなけど。」
 『ちがう、ちがうっ、ウソだよそんなの!!』不思議な声が、あたりに響いた。
色々な人間の声と色々な感情が混ざったような声。
半ば面白がって、この騒ぎに便乗している自縛霊も一緒に発しているようだ。
 「その証拠に、あなたの事、崇志さんには見えてないんだよ。声も聞こえてないんだよ。」
こじかは動じないで、冷静に言葉を続ける。
 『そんなこと・・・』
 「判らないのも、無理ないよ。でもね、落ち着いてお話しよ。このままだと、誰も幸せになれないから。」
 『幸せに・・・?」
 「うん、あなたも、崇志さんも、ここに居るみんなも」
 「そこで、崇志さんにもあなたの声が聞こえるように、ちょっと、この人の肉体を借りてみない?」
こじかの指した方向には、未だに気を失ったままの吉田がいた。
 「そうすれば、崇志さんとお話しできるよ。」こじかがさらに付け加える。
暫く沈黙が続いた。
物音ひとつしない。
それは、一瞬のようで、しかし、とても長く感じた。
   「それじゃ、どうすればいいの?」 自分の状態を理解したくないようだが、決心したようだった。
「ありがと、じゃぁ、この人の真上に来てくれる?」
そう言うと、こじかはゆっくりと吉田の方へ誘導していく。
先ほどまでの暴れようからは、考えられないくらい冷静にこじかの指示に従っていく。
 「じゃぁ、はじめるね。よろしく、さおりちゃん」
心なしか、少しだけこじかは表情をやわらかくした。


 「これでやっと、お話できるわね。」
吉田に憑依したさおりの前に、こじか、瑞希、ぴよが向かいあって居る。
 『うーん、なんか変な感じ・・・』
姿は吉田管理官(30歳・男性)だが、声は16歳の少女なのだ。
誰が見ても、本人から見ても、普通な感じではない。
 「まぁ、この際は緊急だから我慢してね。適任者で女の子は居なかったのよ。」
自分で、気絶させておいて、言いたい放題の瑞希である。
 『なんか、お話するのすごく久しぶり・・・名前を呼んでもらったのも。』
 「そうね、誰もあなたが見えなくて、あなたの声が聞こえなくてお話できなかったんだもの。」
 『ずっと、ずっと、ひとりで寂しかった。ここの街はみんな楽しそうで、でも私はいつも一人で。』
寂しくて、悲しい気持ちを思い出し、さおりの心の涙がこぼれる。
 「気づいてもらえないと、さみしいよね。」
こじかは自分の過去を思い出していた。(しかし、零課の人間でも、こじかの過去を知るものは少ないのだが)
 「私はね、ここに居る人たちに協力するようになる前に、かなりの長い間、独りぼっちだったんだ。
  もう、どれだけかは覚えてないくらい。」
 『わたしも、時間がわからなくなっちゃたよ。』
 「あなたの時間が止まってから、もう何年も経ってるんだよ。」
 『どれくらい、経ってるの?なんだか聞くの怖いけど・・・』
 「5年前の夏休みの初日から、あなたの時間は止まってるの。あなたがここで、動けない限り」
 『気が付いたら、動けなかったの。お家に帰りたかったのに、帰れないし。動けなかったの・・・』
  「それはね、あなたの心がそうしたのかもしれないわね。」
  暫く黙っていた瑞希が口を開いた。
 「この場所に強い思い入れがあるから、あなたは動けなくなってしまったの。大好きな彼との待ち合わせだからね。
  待ち合わせ場所から、動いちゃいけないって思っていたから。待っていれば必ず、彼は来てくれるって思っていたから、その気持ちが強すぎて、逆にあなたを縛ることになってしまったの。」  「まぁ、平たく言えば、あなたは自縛霊になってしまったのね。」
  サクッとぴよが核心を突く。
 『自縛霊って、夏休みの心霊番組でしか聞いたことないんだけど・・・』   まだ、すこし不思議そうにさおりはつぶやく。
 「本人が亡くなっていることに、気付いていないことが多いからね。自爆霊さんは」
  いつものことと瑞希は割り切っているようだ。
 『うん、正直言うと、私も死んでるの認めたくないもん。』
 「でもね、しょうがないんだよ。精神が宿る肉体は、この世には残っていないの」
  自分のこともあるのだろう、こじかは悲しげに吐き出すようにつぶやく。
 「死んだ人間は、生きている者を縛りつづけてはいけないの。彼らの心の中に生き続けていれば良いんだよ。」
 『生きている者を・・・縛る?』
 「あなたは、今、この渋谷の街ごと崇志さんを壊そうとした。   前に進んでいく崇志さんと、前に進めないあなた・・・もう、追いつけないのに」
 「崇志さんの心の中には、まだあなたはいるわ。
  でも、生きてる限り前に進まなくてはいけないの。
  生きていれば、出会いも在るし、恋もするわ。判るわね、さおりさん。」
 「残酷な話だけど、死んだものは身を引くしか出来ないの。
  生きている人間とは、結ばれることはできないんだよ。
  悲しいけど、これが現実なんだよ」
  声を震わせながら、さおりが言葉をしぼりだす
  『ほんとに、残酷な話だね。
   わたし、何も悪いことしてないのに、なんでこんなことになっちゃったの?
   ねぇ、元の私に戻してよ・・・お願い、こんなの辛すぎるよ・・・誰か、助けて・・・』
そんなさおりに、誰も言葉をかけられなかった。
あまりに、少女には辛い現実だったのだから。


一刻の沈黙を破る声が、結界が張られている中から聞こえた。<BR> 「あの、ここに、本当にさおりが居るんですか?」
それは、崇志の声だった。
無理もない、零課の捜査は一般の人間には見られることはないのだから。
声はするけど姿は見えない(と、言うか全く違う人間がしゃべっている)のだから
「ええ、ここにさおりさんの精神体はいるわ。あなたの声も、聞こえているはずです」
崇志には、そう答えたもののさおりと直接対話させるのには、危険が大きい。
いままでは、心霊捜査課との対話により、平静を取り戻しつつあったが、崇志と対話させてまた暴走してしまう可能性があるからだ。
さおりの心は今、殻のない卵のように敏感で傷つきやすい状態なのだ。
16歳の精神には、これまでの対話は負担が大きかった。「現実」と、言われても受け止めらない。
しかし、このままでは事態は収束しない。どうしよう、このままでは憑依させている吉田の肉体の限界がきてしまう。
瑞希の思考を、崇志の声がさえぎった。
「さおり、俺と少し話をしようか?
 久しぶりの再会だしな・・・」
『崇志くん?そこに居るんだね?私の声、聞こえる?』
「うん、聞こえてる。注意して聞いていれば大丈夫だから」
佐々木と冴上に両脇を抱えられながら、さおりのそばに来た。
『崇志君、その傷は・・・』
さおりの視界に傷ついた崇志が入った。
「いや、気にしなくて良いよ、さおりの怪我に比べたら、これくらい平気だから」
『怪我って言うか、私死んでるし・・・』
「まぁ、そんなもんだろ?まだ、俺の中では、さおりは死んでなんかなかったからな。
ずっと、会いたかった。さおりを忘れたことは、無かったよ」
『でも、じゃぁ、なんで来てくれなかったの?わたし、ここでずっと待っていたのに』
「ごめんな、俺もさおりが居なくなって、ショックで、辛くって、心の整理がなかなか付かなかったんだ。
それで、暫くこの街に近づけなかった。これは、いい訳になってしまうけど」
『崇志くん・・・』
「ここに来るのは、5年ぶりだよ。5年前に来たときは、さおりを待っていたから。(BR) いくら待っても、さおり来ないんだから」 『え?そうなの・・・崇志くんが待ってたの?』
「さおりがここに来たのは、俺が帰ってからになるのか。すれ違いだったのか・・・
不思議だけど、おかしいな。今だからそう思えるけど」
『おかしいだなんて、ひどいよぉ・・・ずっとずっと待ってたのに・・・』
「俺も、こうやって会えるのをずっと待っていたよ。こんな風になるとは思ってなかったけどな」
『うぅ、ごめんなさい。こんなことするつもりは無かったの、自分の心が操縦できなかったの』
「最初はビックリしたけどね、渋谷の街壊しまくってたし、怪獣か何かだと思ったよ」
『どうせ、怪獣ですよ〜だ。崇志くんが5年も待たせるからいけないんだもん。』
「怪獣が恋人なんて、洒落にならないって。まったく。5年前は、もっとかわいらしかったのにな」
『う・・・ひどいなぁ、でも可愛いって言ってくれて、うれしかったよ』 ちょっとほっぺたを膨らませながら、16歳の女の子のかわいらしい声の表情になった。 「やっと、笑ってくれたな。俺も、さおりにこうやって会えてうれしかったよ。
ずっと、さおりのこと忘れないから。さおりは俺の心の中で生きているから、安心して天国に行ってくれ。
ここに居るままじゃ、さおりは幸せになれないと思うんだ、また寂しい思いをさおりにさせたくないんだ。」
『そんな、さよならなんて、したくない・・・』
「大丈夫、さよならじゃないから・・・また、いつか会えるよ」

  
  
 


 



続く・・・
 
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